最近読んだ小説-「海辺の金魚」小川紗良-

映画「海辺の金魚」が完成した後、小説も作られることになりました。撮影終了後、1年の時間をかけて書き上られたそうです。よくあるノベライズではないので、別のものとして接するほうが良いでしょう。映画を先に観ても、小説を先に読んでも、いずれの順で接しても楽しめる作品です。

※小説の発売は6月9日、映画公開は6月25日でした。

「海辺の金魚」のほかに「みっちゃんはね、」「星に願いを」「花びらとツバメ」の3編の短編小説がおさめられています。「海辺の金魚」は映画とは終盤の描き方が異なっています。「海辺の金魚」はひと夏の物語ですが、ほか3編はその先の季節も描かれ、主人公の花が進む道まで記されています。また、他3編は映画では触れられていなかった晴海以外の子供達をスピンオフ風に扱っており、こちらも映画で観たいと感じられる傑作です。

読み進めると登場人物の心情、物語に現れる景色や場面がくっきりと浮かんできます。文章のテンポの良さも見事で、知らず知らずのうちに作品の中に引きずり込まれます。また、言葉の選び方が秀逸で、とても初めて書いたとは思えない完成度です。読み進めながら「すごい作家が誕生した」と興奮を覚えるほどでした。小川紗良さんが持つ才能の豊かさと深さを知るにつれ、驚きを通り越して恐ろしさすら感じています。

こんな素敵な小説を書くだけでなく、難関資格の一つである保育士資格まで取得しているのです(2021年1月)。コロナ禍の自粛期間を利用して勉強を進めていたとのことです。保育士資格は養成過程を持つ大学・短期大学・専門学校等で学んで取得するよりも、受験して取得することは難しいのです。必要な9科目を3年に分けて取得する方が多いのですが、小川紗良さんは短期間の学習で全科目一発合格しています。

これから役者・監督・執筆家としてどんな姿を見せてくれるのかが楽しみでなりません。

表紙 左 花役の小川美佑さん、 右 晴海役の花田琉愛さん
7月17日、枚方市の蔦屋書店で開催されたトークショーで小川紗良さんからサインをいただきました。

最近観た映画-「海辺の金魚」 小川紗良監督-

小川紗良さんを知ったのは朝の連続テレビ小説「まんぷく」(2018年10月~2019年3月)に主人公の娘役として出演していたことがきっかけです。その後もドラマ等で気になる役どころを演じており、ずっと注目していました。監督として作品を撮っていることを知ったのは昨年のことです。これまで短編映画を3本製作し、その全てが映画祭で入選を果たしています。「あさつゆ」「最期の星」が昨年YouTubeで無料公開されているのを見て、その作風、世界観に強く惹かれました(「あさつゆ」では主演も兼ねています)。そんな彼女が長編映画の初監督として製作したものが「海辺の金魚」です。監督・脚本・編集の三役をこなしています。2019年に撮影されています。

児童養護施設で暮らす18歳の少女、花がこの物語の主人公です。その施設にやって来た8歳の晴海との関わりを中心に、そこで働く児童相談員のタカ兄(たかにい)や子供達とのふれあい、自分の将来や事件容疑者である母親との関係に悩み揺れる心情が細かに描かれています。

風景の美しさ、音数が少ない、劇中の音楽が美しい、鑑賞者の解釈が入り込む余地が多い、と僕が好きな映画の要素がたくさん含まれています。

いろいろと驚いたこと、感心したことがありますが、まずは俳優の演技の素晴らしさです。

花を演じた小川未祐(おがわみゆ)さん、目の表情が多彩です。入所者で最年長の彼女が小さな子供たちと接するときの穏やかさや頼もしさ、先が見えない未来に対して抱える不安、逃れられない過去に囚われる際の苦しみなど、繊細な心情を見事に表現しています。今後さらに活躍の場を広げていくことでしょう。

晴海役の花田琉愛(はなだるな・ロケ地の鹿児島県阿久根市でのオーディションで選出)さんも本格的芝居が初めてにもかかわらず、施設に来たばかりのとげとげしさ、花に少しずつ心を開くようになりそれにつれて見せた人懐こい表情など、難しい役どころをこなしています。児童相談員タカ兄を演じた芹澤興人(せりざわたてと)さんは、施設の子供達のことを大切に思いそっと寄り添う姿だけでなく、花のことを程よい距離で支える姿が印象に残りました。

阿久根の街を写した映像も実に美しいです。海岸が何度も登場するのですが、波がキラキラ光るさまがとても美しく、いつまでも見ていたいと感じるほどです。撮影は「誰も知らない」「永い言い訳」などを手がけた山崎裕(やまざきゆたか)さんです。

劇中音楽も程よい使われ方で、美しいものでした。ショパンの「夜想曲 第2番」が劇中なんども使用されますが、特に印象に残るのは物語の最終盤でピアノ独奏に加え弦楽器(チェロ?)が良い意味で曲の穏やかさを一変させるフレーズを重ねる場面です。物語にいっそう魅力を与える素晴らしい音楽です。音楽担当者の名前を見て納得、渡邊崇さんでした。彼が音楽を担当した作品では「長いお別れ」(蒼井優さん主演 中島京子さん原作)での音楽も心に残るものでした。

見終わった後も長く余韻が残り何度も見たくなるのですが、残念なことは、上映館が少ないことです。

※関西では京都1館、大阪1館の2館です(どちらも2週間で上映終了)。しかもなかなかに足を運びにくい時間帯でした。個人的には出町座でじっくり味わいたい気がします。

映画上映に併せて同名の小説も出版されたのですが、それを読んで驚きはさらに大きくなりました。

つづく

爪の手入れについて 3

爪の手入れについて 2」でルシエールの布ヤスリを使用していると書きました。数種類の粗さのヤスリが揃っており、自分が納得できる状態に整える事ができたため大変重宝していました。しかし、随分前にどういう事情か楽器店店頭や通信販売サイトから在庫がなくなってしまいました。前回購入分を使用しつつ他の商品も試してみたのですが、満足できるには至りませんでした。とうとうその悩みを解決できるヤスリが登場しました。

サウンドファイルの爪ヤスリです(税込価格3,960円)。ナノテクノロジーを用いて開発された素材を使用し、滑らかで爪を痛めず整える事ができるとうたわれています。最も魅力を感じたのは、これまでのガラスのヤスリでは仕上げに紙や布のヤスリで仕上げる必要があったのですが、このヤスリであれは1本で全て可能という点です。

いつもお世話になっているドルフィンギターズのTwitterで取り上げられるとあっという間に完売してしまいました。かろうじてAmazonで入手できました。

早速使用した感想を書きます。

とても滑らかで、従来のヤスリと比べると削っている感じが少なく頼りなさを感じますが、ヤスリ面にはきちんと爪の削りカスが付いています。何よりも大事なのは爪の内側がどれだけ滑らかに整うかです。光沢たっぷりに仕上がり、ナイロン弦・鉄弦ともに引っ掛かりなく弾弦することができました。これは使えます。長年の悩みが晴れました。

ただし、長く伸びた爪を短く削る場合は多少時間がかかる気がします。僕のようなせっかちな人間はチェコ製のブラシェクなどで荒削りして仕上げにこのヤスリを使うのが良いでしょう。

削り面が最初の品質をどの程度の期間保ってくれるかが気がかりなので、その点に関しては注視していきたいと考えています。

最近聞いたCD-朴葵姫「Le Depart」-

デビュー10周年を迎えた朴葵姫の3年ぶり新譜が今月3日に発売されました。初めてのセルフプロデュース作品です。普段であれば彼女の作品はフラゲ(フライングゲットの略語、前日に入手すること)するのですが、7日にコンサートが開催されるので、せっかくであれば会場で購入しようと思い数日間我慢しました。

留学の際に深めたスペインの作曲家による作品を中心に構成されていますが、以前録音したタレガ「前奏曲第五番」やヴィラ=ロボス「ショーロス第1番」も新たな録音で収録されています。

コンサートで何度も聞いている曲が多かったのですが、作品の完成度が高まっています。美しい音色にもますます磨きがかかっています。音色変化は一つ間違うと下品になり曲を壊しかねないのですが、曲の性格を正しく理解したうえで使い分けているので聞いていて全く違和感がありません。そして、必要以上に大きな音を出そうとするあまり音色を損ねるギタリストが多い中、彼女は無理に楽器を鳴らそうとしません。この点は特筆すべきことだと思います。

特に印象に残った曲はマーラー「交響曲第5番 第4楽章 アダージェット」です。優れた自作曲・編曲を数多く残したギタリスト・作曲家の佐藤弘和氏の手による編曲です。曲のテンポが遅く、メロディの多くが長音符で奏でられるため、音の持続が難しいギター独奏には向かない曲です。しかし、メロディをうまく響かせ多彩な音色を用いています。彼女の持つ豊かな表現力もあり、長い曲であるにもかかわらず退屈さを感じることもありません。

今後どこまで彼女の音楽が進化(深化)するのか、それを考えると楽しみしかありません。彼女が好きだと語っているタレガやバリオスだけの作品を集めたアルバムもいつの日か聞いてみたいです。

※終演後には会場でのCD購入者を対象にサイン会が開かれることが多いのですが、このご時世なのでさすがにありませんでした。しかし、事前に用意されていたサインをいただくことができました。

最近聞いたコンサート-朴葵姫(パク・キュヒ)ギターリサイタル-

実演を聞きたいと思える数少ないギタリスト朴葵姫のコンサートに行きました。前回に聞いたのが2019年10月27日、会場は今回と同じ府民ホールアルティでした。約1年5ヶ月ぶりです。本当は昨年3月に大阪で予定されていたコンサートがあったのですが、コロナウイルス禍で11月に延期されたものの結局中止になってしまいました。

今回は3月3日に発売されたばかりのニューアルバム(このアルバムについては後日改めて触れます)に収録されている曲を中心に、彼女が好きなタレガやバリオスの作品、幅広く知られている楽曲をギターソロ用に編んだものも含むボリュームたっぷりのプログラムでした。

十八番のトレモロの美しさについてはよく語られますが、これは誤りです。美しいのはトレモロだけではなく音色そのものです。張りの強い弦を使用しているにもかかわらず、音色に柔らかさや温かさがあるのは右指の使い方に秘密があるのでしよう。ベルベットタッチと呼んでも差し支えがないと思います。

そして、表現にはますます深みが増しています。何度も聞いている曲が多かったのですが、斬新な解釈を見せたり、メロディやフレーズにあった音色を奏でることで曲の魅力が数段増しています。ギターでこれほどまでの多彩な音が出せるのかと感心すると同時に、ギター弾きとしては少しばかり悔しさも感じました。

演奏曲目は後述しますが、大曲が多く、かつ手指を酷使する曲が続いたせいか、あるいは手汗のせいか(彼女は汗かきだと語っていたことがありますが、いつも以上にハンカチで手を拭う場面が数多くみられました)、らしくないミスが終盤ありましたが、そんなことを差し引いてもこれだけ見事な音楽を奏でることができる演奏家はいないでしょう。

※僕は自他共に認める大汗かきですが、指先に汗がついた状態でギターを弾くと、左手は4~6弦を押さえる際にべたついて滑らかな押さえ変えが困難です。1~3弦は逆に滑りやすくなります。また、右手も4~6弦を弾くときに引っかかります。

今後どのような演奏を聞かせてくれるか、ますます楽しみなギタリストです。

演奏曲目

第1部

F.ソル エチュード Op.6-11

N.コスト 旅立ち、劇的幻想曲Op.31

F.タレガ ラグリマ

F.タレガ アラビア風奇想曲

I.アルベニス スペイン Op.165より 第5曲 カタルーニャ奇想曲

I.アルベニス スペインの歌 Op. 232より 第4曲 コルドバ(夜想曲)

E.グラナドス  詩的ワルツ集

第2部

A.ルビーラ 愛のロマンス

E.クラプトン(佐藤弘和編) Tears in Heaven

菅野よう子(佐藤弘和編) 花は咲く

G.マーラー (佐藤弘和編) 交響曲第5番 嬰ハ短調より 第4楽章 アダージェット

A.バリオス フリア・フロリダ

A.バリオス ワルツNo.4

A.バリオス 大聖堂

アンコール

R.ディアンス タンゴ・アン・スカイ

ギターの難しさと面白さ-音の高さと指板の位置について-

クラシックギター、アコースティックギターを問わずよく質問をいただくのは「五線譜を読める方が良いか」ということです。もちろん、読める方が便利です。

最近タブ譜付きのものを少しは見かけるようになりましたが、クラシックギターの楽譜はほとんどが五線譜のみです。まず音の高さを五線譜で確認し、音符横に記された指番号や弦番号を頼りにしながら、どこを押さえるか探していきます。慣れるまでは苦労しますが、この作業を繰り返しているとさほど時間がかからずに見つけることができるようになります。

しかし、常に指番号や弦番号がついているわけではないから厄介です。近年発行されている弾き語り用楽譜やバンドスコアにはタブ譜が付いているものが多いですが、過去に出版され現在も流通されているものには複雑な運指を求められる場合以外は音符しか書かれていません。

ピアノやエレクトーンなどの鍵盤楽器は鍵盤の形で音名を判断できます。音の高低にかかわらず、ド(C)の音が出る鍵盤の形は同じです。しかしギターは6弦開放弦(E)から4フレット(G#)以外は同じ高さの音が複数の位置から出るため難しいのです(変速チューニングの場合をのぞく)。

指板を図面にしました。
縦: フレット
横: 弦

例えば、Cのスケール(ドレミファソラシドの音並び)であれば、鍵盤楽器は白い鍵盤を左から右へ順に引いていけば良いのですが、ギターの場合は複数の弾き方があります。

1.は開放弦も使用するスケールです。

2.・3.は開放弦を使わないスケールです。

4.は先に弾いた音の余韻を残したい場合に使います。

また、次のような楽譜は音の高さを理解できても、どのように弾くかを判断することは難しいです。

この譜面ですが、1・2弦の開放弦の響きを生かしてフレーズが作られています。

譜面を見ただけでわかりにくい場合は、前後の小節に出てくるフレーズを確認したり、音源を聞くことで弾き方を見つけられることがあります。

他の楽器にはない面倒さと難しさですが、これがギターの面白さであるとも言えます。

意外に難しい!!「愛のロマンス(禁じられた遊び)」2-2

※冒頭箇所(・・・に挟まれている箇所)は1月20日に投稿した内容を再度掲載しています。

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2015年6月29日にも投稿していますが、この曲は前半と後半で難易度が大きく変わります。

前半は開放弦を多く使用するため、左手の押弦は2箇所のセーハ以外はさほど難しくないでしょう。しかし、Em(ホ短調)からE(ホ長調)へ転調後は難易度が高くなります。難しいのは主に次の4点です。

  1. セーハ(バレー)が多い。
  2. ポジションチェンジ(ローポジションからハイポジションへの移動)が多い。
  3. 指を大きく開いて押弦しなければならないことが多い。
  4. 素早い押さえ変えが必要。

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3. 19小節の押弦(B7sus4のコードフォーム)はなかなか困難ですが、それと同等かあるいはそれ以上に難しいのが27小節目です。1弦9フレット-小指、2弦5フレット-人差し指、3弦6フレット-中指の3ヶ所を押さえます。3ヶ所を同時に押弦することが難しい方は、1弦(小指)、2弦(人差し指)、3弦(中指)の順に1本ずつ押さえてください。手の小さい方や指の硬い方は届きにくいと感じられる方が多いと思います。左手親指をネック裏中央(3弦と4弦の間)より1弦側にずらすと各指が開きやすくなります。また、中指と小指は指を立てて押さえやすくできます。ギターの構え方を見直したり、椅子や足台の高さを変えることで押弦しやすくなります。

19小節目の押弦(B7sus4のコードフォーム)
27小節目の押さえ方

4. メロディに気を取られていると気づきにくいのですが、各小節最後の音をしっかりと鳴らさないままに次の押さえ変えに移りがちです。例えば、17小節最後の3弦1フレットG#の音を最後まで押さえずに3弦開放弦Gを鳴らしてしまうと響きに濁り(不協和音)が生じます。小節最後の音まできちんと鳴らした後に素早く押さえ変えに移るのですが、完璧にできるまでは一つ一つの音をしっかりと聞きながらゆっくりと練習します。もちろん押さえ替えの際にメロディがつながるように素早く正確な押弦が必要です。

こうして注意事項をあげていくと、この曲がなかなか難曲であることが理解していただけると思います。後半は2小節ずつに区切ったり、できるところから先に練習するなど工夫していただければ良いでしょう。

意外に難しい!!「愛のロマンス(「禁じられた遊び」)」2-1

2015年6月29日にも投稿していますが、この曲は前半と後半で難易度が大きく変わります。

前半は開放弦を多く使用するため、左手の押弦は2箇所のセーハ以外はさほど難しくないでしょう。しかし、Em(ホ短調)からE(ホ長調)へ転調後は難易度が高くなります。難しいのは主に次の4点です。

  1. セーハ(バレー)が多い。
  2. ポジションチェンジ(ローポジションからハイポジションへの移動)が多い。
  3. 指を大きく開いて押弦しなければならないことが多い。
  4. 素早い押さえ変えが必要。

2回に分けて解決策について触れていきます。

1.に関しては過去に投稿しているブログを参考にしていただければと思います。セーハの際は人差し指を重視しがちですが、中~小指の力加減、左手(手首・ひじ)の使い方などの大切さに触れています。

https://kuzuhaguitar.wordpress.com/2018/05/08/fコードを押さえるのは難しい/

https://kuzuhaguitar.wordpress.com/2019/05/06/セーハを練習する際の注意点/

https://kuzuhaguitar.wordpress.com/2019/07/12/セーハコードへの押さえ変えは難しい-左手を自由/

2. については、いくつか段階があります。まずは左手だけの練習、例えば20小節から21小節への押さえ変えをゆっくり繰り返し行います。繰り返すことでどの程度左手が移動するか、押弦の際にどの程度指を開くかの感覚がつかめるようになります。右手を合わせての練習は左手移動がある程度確実にできるようになってから行います。

https://kuzuhaguitar.wordpress.com/2019/05/26/左手を自由に-アコースティックギターを弾く際/

3. 4. は次回以降に触れます。

最近聞いたCD-柴田淳「蓮の花がひらく時」-

柴田淳さま(以後しばじゅんとさせていただきます)の約2年2ヶ月ぶり、オリジナルアルバムとしては13枚目のアルバムです。

3rdアルバム「ひとり」(2004年)の頃から編曲・演奏で参加している松浦晃久、2013年のコンサートツアー以降のステージ、10thアルバム「バビルサの牙」(2014年)から多くのアルバムに携わる森俊之、新たに富田恵一と山本隆二の4者をサウンドプロデューサーとして迎えた作品です。初期の作品はアコースティックな音作りが多かったですが、ここ数作では幅広い音楽性を感じられます。今作はどんな仕上がりかをずっと楽しみにしていましたが、こちらの想像のはるか上を超える素晴らしいアルバムです。

1・2曲目のギターのディストーションが効いた音で度肝を抜かれ、3曲目は打ち込みに加え初期の頃には絶対に聞くことができなかったしばじゅん自身の多重コーラス(生演奏した時に表現できない音楽を作りたくなかったとのことです)…ここまでで心を思いっきり揺さぶられます。特に1曲目の半音ずつ下がっていくサビのメロディが衝撃でした。2・3曲目はE♭mの曲ですが、このキーを歌わせるとよりしばじゅんの良さが出ると思います(「未成年」「白い世界」「紅蓮の月」など)。しかし、4曲目からは美しいバラードやジャズ風の曲など、これまでのしばじゅんを感じられる作品が並びます。全10曲の並び順が見事にぴったり合っています。

個人式にはピアノとストリングスを中心とした音が好きですが、しばじゅんの作る作品、特にメロディが良いので、どのように料理してもしばじゅんの味が感じられます。それに加え少しハスキーなのに透明感があり、憂いたっぷり唯一無二の声から発せられる言葉(歌詞)は時には鋭く、時には優しくと実に豊かな表情です。最近は鼻濁音を使わない(使えない)歌い手が増えていますが、この点に関しても実に綺麗な発音です。

サウンドプロデューサーが複数の場合、ややもするとそれぞれが自分の色を出そうとし過ぎてアルバムとしてのまとまりが感じられない作品をよく耳にしますが、各者自らの味を出しつつもしばじゅんの魅力をいかに引き出すかを一番に考えています。楽曲の良さを最大限に生かし、しばじゅんに寄り添った素晴らしい編曲をそれぞれが手がけています。

今作も聞きやすい良い音で録音されています。特に初回盤にはInsturumental盤(ボーカルレストラック)がついており、演奏の細かなフレーズもよく聞き取れます。しばじゅんの声も表情豊かに聞くことができます。しかし、実演の彼女の歌はこんなものではないです。やはりもっとコンサートを多く開いて欲しいです。

#柴田淳

#しばじゅん

#蓮の花がひらく時

最近聞いたCD-KAN 「23歳」-

POPS職人KANさんの約4年半ぶり17枚目の新アルバム「23歳」、やはり今作も期待を遥かに上回る傑作です。先行シングル「ポップミュージック」や前回のツアーで披露された曲が数曲含まれていますが、楽曲がバラエティーに富んでいるため、新鮮な気持ちで聞くことができました。

初期ビートルズ、中田ヤスタカ(きゃりーぱみゅぱみゅ、Perfumeのプロデューサー)、アコースティックギターのストロークが爽やかな楽曲、ハードロックなどいつもながらに幅広い音楽性を見せています。CDの帯に記されていたコピー「最新17作目は10曲10ジャンル」通りです。バンドツアーのメンバー、トライセラトップス、秦基博、佐橋佳幸などミュージシャンの顔ぶれも実に豪華です。

個人的に最も好きなのはアルバムの最後を飾る「エキストラ」です。前回のバンドツアーで初めて聞いた曲です。僕が初めて曲を聞くときはメロディ、コード進行、リズムを中心に聞くので歌詞は全くと言っていいほど入ってこないことがほとんどです。しかし、この曲はKANさんの甘い声から紡がれる言葉も一緒に入って来ました。この歌詞があまりにも切なくて悲しく、メロディの美しさがそれを際立たせています。KANさんの声で聞くのも良いですが、歌のうまい女性に歌ってほしい楽曲です(個人的には松浦亜弥の声で聞いてみたいです)。

今作もレコーディングドキュメンタリーDVD付きです。ミュージシャンを交えたスタジオでの録音風景やKANさんの個人事務所と思われる場所からは打ち込みの制作の様子の解説がされるなど、楽器を演奏する方だけでなく音楽好きな方は楽しめる内容です。