発刊されていた雑誌「Guitar Dream」にて、「アグスティン・バリオス(以下バリオス)の孫(甥だった可能性もあります)がピアニストで、バリオスのギター曲をピアノ独奏用に編み、自ら演奏したアルバムがある」との記事を読んだ記憶がありました。度々、Yahoo!やamazonで「バリオス ピアノ」などのいろいろなキーワードで検索をかけていたものの、ずっとこれといったものが出てきませんでした。しかし、つい先日、とうとう発見したのがこのアルバムです。CDが発売されたのが2004年、ダウンロードによる発売が2016年とのことでした。
バリオスの代表曲「大聖堂」をはじめ「最後のトレモロ」「フリアフロリダ」「前奏曲ハ短調」など全10曲です。
ギタリスト視点から判断すると、やり過ぎと思えるほどのダイナミクス(音量差)のつけ方をしています。しかし、楽器の性質・能力・表現力を考えると当然と考えるべきでしょう。とは言うものの、曲の本質を理解し、原曲の雰囲気を損なわない見事な編曲・演奏です。
ギターはオリジナル曲が少ないため、他楽器のために作られた曲をギター用に編曲したものが多くあります。その逆、つまりギター曲からピアノ用にしたものは少なく(ピアニスト高木洋子のアルバム「クラベリートス」にバリオス「大聖堂」「フリアフロリダ」、タレガ「アラビア綺想曲」が収録されています)、その意味でも貴重なアルバムです。
個人的に最も関心があったのは「最後のトレモロ」をどのように演奏するかでした。ギターのトレモロ奏法(タレガ「アルハンブラの思い出」が代表的作品です)は修得するのが難しい技術の1つですが、ピアノによるトレモロもピアノ奏法の中では難しい技術の1つと言われています。
「最後のトレモロ」では同音連打(文字通り、同じ音高の鍵盤を続けて鳴らす)によるトレモロが多用されていますが、ギター演奏と同程度の速度で演奏するのはさすがに難しそうでした。ジョン・ウィリアムスは3分27秒、デヴィッド・ラッセルは3分14秒で演奏しています(いずれもCD収録時間)が、このアルバムでは5分9秒とゆっくりとした演奏です。しかし、この曲の「重苦しくも美しいメロディ」を表現するにはちょうど良いと思いました。
※ピアノのトレモロ曲をギター用に編曲したものがあります。アメリカのピアニスト、ゴットシャルクによる「トレモロ」をタレガが編みました。原曲は軽快かつメロディの美しい曲ですが、ギター版はメロディの美しさをより意識してか、速度を落として演奏されることが多い佳曲です。
また、ギター版「クリスマスの歌」は、25小節目途中から27小節目途中、29小節途中から31小節途中までは、この20年ほどはハーモニクスで演奏されることが多いのですが、このアルバムでは楽譜通りの音の指定のまま弾かれています。
※この件に関しては、近いうちにまとめる予定です。
amazon musicでMP3音源が1,500円で発売されています。